Return to search

群知能シミュレーションにおける異方性の創発とその解析評価

近年, さまざまな学問分野でマルチエージェントシステム(multiagent system) が重要視されている1). マルチエージェントシステムとは, 自律した主体的な個体(エージェント) が多数相互作用することで, 全体として一つのまとまりを示すシステムをいう. 中でも自然界における魚や鳥の群れはマルチエージェントシステムの代表例である. こうした自然界のいわゆる「群れ行動」は, 「群れにはリーダーがおり, 各個体はその動きに追従する」といったいわゆるトップダウン的なシステムではなく, Aoki(1982)6) やReynolds (1987)2, 7) らが主張する, 「各個体間のシンプルな相互作用のみで集団全体として群れ行動が創発される」というボトムアップ的なシステムとする見方が有力である. 事実, 群れ行動が持つ個体間の強固な結合や, 群れの形状の柔軟性などはいずれもマルチエージェントシステムが持つとされる頑強性(robustness), 柔軟性(flexibility)といった特徴1) と一致し, 今日の映画などのアミューズメントの分野ではその「リアルさ」から群れ行動の再現のほとんどではマルチエージェントによるボトムアップ的な群れアルゴリズムが用いられている2). 中でもReynolds が1987 年に発表したBoid アルゴリズム7) は, 群れの相互作用をエージェント間の3 つの単純なルール(4.1 節参照) でまとめた有名な群れ再現アルゴリズムで, 映画「BatmanReturns」(Tim Burto,1992) においてコウモリやペンギンの群れを表現する際に用いられたことでも注目された2). こうした, 群れ行動をマルチエージェントシステムとして再現し応用する試みはアミューズメント分野に留まらず, 生物学8) や宇宙工学9) などの幅広い分野で研究されている.しかし応用の拡大の一方で, 計算機上に「再現」されたマルチエージェントによるそれら「群れ」を自然界の生物の群れ行動と「実証的」に比較し評価することは, 実測データの取得/解析の困難さから現在までほとんど研究されてこなかった. こうした比較なしでは自然界の群れ行動の原理の追求はもちろんのこと, その再現とされる群れ(群知能) シミュレーションの妥当性も実証的に確かめることはできない. これにより群れ行動の研究が各研究者毎の「主観」によるものに留まり, 今後の応用/発展への大きな妨げとなることが危惧される.そこで本稿では2008 年にBallerini らイタリア研究グループが発表した自然界(実世界) の「ムクドリの群れ」に対する実測データと, 彼らがそこから実証的に示す「異方性の創発」という多体系の協力現象に着目する5). そしてこの現象がReynolds によるBoid アルゴリズムを用いて作成した群知能シミュレーションによって再現でき, またそれに基づいて計算されるある種の統計量が「自然な群れ」「群れらしい群れ」が形成されたことの客観的な判断指標ともなりうることを計算機実験により示す. 本研究は実世界と群知能シミュレーションとの実証的な比較, 群知能シミュレーションの妥当性評価というこれまで十分な研究がなされてこなかった分野への新たな足がかりを提示するものである. / Hokkaido University (北海道大学) / 学士

Identiferoai:union.ndltd.org:HOKKAIDO/oai:eprints.lib.hokudai.ac.jp:2115/43956
Date25 March 2010
Creators巻口, 誉宗
Source SetsHokkaido University Japan
LanguageJapanese
Detected LanguageJapanese
Typetheses (bachelor)
Format27 p.

Page generated in 0.0018 seconds